February 16, 2018
『愛と胃袋』という名の旧家にて日溜まりのフレンチを。
Vol.8 いざ美食のメゾンへ|Terroir Love & Stomach
Text by
Taki Masashi
古民家というより、お屋敷でフレンチ
中央自動車道を須玉で降りて、国道141号線、清里ラインを北上し思わず息を飲んだ。冬晴れの空の下、正面には八ヶ岳が迫り、背後には霊峰富士が浮かんでいる。とてもゴージャスな景観の二点盛りである。都内、三軒茶屋にあったフレンチの『愛と胃袋』がこの春、その清里ラインに近い北杜市高根町長澤の古民家に移転した。評判が良く、惜しまれつつの三軒茶屋店閉店だった。……それにしても、インパクトの強い店名だ。英語にすれば、Love & Stomach。ふつう「ラブ&」ときたら「ピース」が相場だが「ストマック」である。「夢と現実」、はたまた「バーチャルとリアル」の暗喩だろうか? ジョン(レノン)が知ったら、草葉の陰でさぞや驚くことだろう。

古民家を改装して、と聞いていたが訪ねてみればそれはまがうかたなきお屋敷だった。マダムの石田恵海(えみ)さんに案内されたフロアは、そのお屋敷のほんの一角。天井を見上げれば太い梁が幾重にも走っており、そこからシャンデリアが下がっている。畳の間はそのままになっており、和と洋が無理なく共存。手を入れ過ぎていないところもいい。「古民家、とは言っていますが、皆さん来られると大きさに驚かれますね。ここは甲州街道と佐久を行き来する物流拠点で、陣屋格だったそうです。でも〝旧陣屋〟だと和食っぽいし、こちらから〝お屋敷〟と言うのも違う気がしますし。なにかいい言い方がないかなと思っているんですが、まだ見つかっていないんです」とマダム。

テーブルに置かれたメニューには「amuse 平飼い鶏のたまご 八ヶ岳湧水鱒」、「hors d’oeuvre パテ・アンクルート」、「Soup ジビエ 鹿肉のコンソメ」、「legumes ブラウンマッシュルーム」、「poissons 京都府産スズキ」、「viands 穂坂を走る放牧豚」(以下、略)とある。表記がとても簡潔だ。ところが、テーブルに来る皿はどれもメニューの簡潔さ(愛想の無さ?)とは打って変わって、とてもわかりやすい。コースのメインだった「穂坂を走る放牧豚」(写真 下)は、世界ブランドとなった甲州ワインの葡萄産地である穂坂エリアにおいて、放牧されている豚を材としている。赤ワイン煮の身は甘い脂で葛饅頭のように覆われており、肉用ナイフより箸の方が食べやすいほど柔らかい。皿が置かれ、素材や料理法の説明を受け口に運ぶと、見た目どおりの味が広がる。スカしてもヒネてもおらず、誠実で丁寧なひと皿だ。土地の個性を尊重するテロワールらしいコースながら、難解でも理屈っぽくもないところが素晴らしい。鈴木信作シェフの人柄、人徳なのだろう。シェフは最近狩猟免許を取得し、ジビエメニューにも情熱を注いでいる。

「Soup ジビエ 鹿肉のコンソメ」(写真 下左)は、丁寧にとられた鹿のコンソメスープを、フォアグラと鹿肉の薄切りが入った椀に注いでいただく趣向。注いだ際に立ち上がる香りが素晴らしく、スープは予想を超えて甘く濃い。「legumes ブラウンマッシュルーム」((写真 下右)は、ソテーされたブラウンマッシュルームの上に、ジャガイモで作られたカダイフ(天使の髪)で、やはりブラウンマッシュルームのペーストを巻き込み揚げたもの。ナイフを入れた際に立ち上った香りと、底なしに深い味わいが忘れられないひと皿となった。

三軒茶屋にあった当時から店は「三世代が一緒に楽しめる」よう、バリアフリーにし、子どもの来店も歓迎。オーダーがあれば離乳食も用意した。それはテロワールとなった今も続けている。「都内では住宅事情からか、三世代での来店は少なかったんですが、こちらでは当たり前なんです。おかげ様で地元紙や、地元TV局で紹介いただいたので、地元のお客様がすごく多いんです。これはオープン後のすごく嬉しい誤算でした」と、マダム。フロアには大ぶりの薪ストーブがどんと置かれていて、大きな窓からは冬の日差しが斜めに入り、テーブルの上に心地良い日溜まりをつくっている。大きな建物に抱かれている感じも悪くない。そこは古民家でありお屋敷であり、あたたかなメゾンでもある。

取材当日、日本列島は寒波に覆われ、終始気温は一桁台だった。清里高原まで上がると、日差しは強くとも氷点下。日影や谷間に除雪しきれず、アイスバーンも残るなか、CADILLAC CT6はドライバーの杞憂をよそに粛々と距離を重ねた。AWDの安心感は絶大で、少々雪多き脇道に分け入っても、何も起こらない。ステアリングから路面状況が瞬時に、的確に伝わるのも、雪道でのストレスを大きく低減させている。
『愛と胃袋』は、清里高原のエントランス的なロケーションにある。清里ライン(国道141号線)や、清里高原道路(山梨県道28号線)は、日本有数のドライブコースだ。冬晴れの日の清里高原からの八ヶ岳の眺めなど、そこが都心から二、三時間ほどの距離とは到底思えない雄大さがある。午前中にドライブを楽しみ『愛と胃袋』でランチを堪能。店から中央道 須玉ICへは12km、15分ほどの距離だから、休日の中央自動車道上り渋滞とは無縁の帰宅を果たすのにも都合が良い。帰路、そこが理想的なロケーション的にも理想的な〝田舎の家〟であることに気がついた。オーベルジュとなったら、是非また帰省させてもらおうと、そう思う。
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CADILLAC CT6
キャデラックの伝統を継承し、
AWDフルサイズセダンという理想を実現させた
世界をリードする、まったく新しいラグジュアリーカー。
3.6ℓ V型6気筒DOHCエンジン
全輪駆動 / 8AT / 8エアバッグ 搭載
全長×全幅×全高:5,190×1,885×1,495㎜。
¥9,990,000(税込)
※「Cadillac PLACE」に掲載されている記事は、取材当時の内容です。お客様がご覧いただいた時点と情報が異なる場合がございますので、あらかじめご了承ください。
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